最高裁判所第三小法廷 平成8年(行ツ)122号 判決 1997年10月14日
大阪市中央区北浜四丁目七番二八号
上告人
旧商号 日本トレールモービル株式会社
日本トレクス株式会社
右代表者代表取締役
高橋正榮
右訴訟代理人弁護士
湯浅正彦
同弁理士
藤木三幸
神奈川県厚木市上依知上ノ原三〇三四番地
被上告人
日本フルハーフ株式会社
右代表者代表取締役
入江義朗
右訴訟代理人弁護士
青木康
同弁理士
荒垣恒輝
右当事者間の東京高等裁判所平成六年(行ケ)第一二三号審決取消請求事件について、同裁判所が平成八年二月二九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人湯浅正彦、同藤木三幸の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものであって、採用することができない。
よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 園部逸夫 裁判官 尾崎行信 裁判官 山口繁)
(平成八年(行ツ)第一一二号 上告人 日本トレールモービル株式会社)
上告代理人湯浅正彦、同藤木三幸の上告理由
一、上告理由の趣旨
原判決には、以下に述べる通り、判決の結論に影響を及ぼすべき、法令適用たる経験則及び採証法則の誤り、審理不尽の違法、実用新案法第三条第二項の法令解釈の誤り並びに理由不備の違法が存在する。
二、甲第4号証の第二図の解釈について
1、原判決は、その理由欄3、(2)、<3>において、甲第4号証には、「角部内側に目地材嵌着部7を備えた骨枠体5を隅部に配し、かかる骨枠体5に、隅部を構成する隣り合うパネル1、2の端部をそれぞれビス6等の固定部材にて固定せしめて連結する一方、該骨枠体5の角部内側の目地材嵌着部7に対して背部において凹凸嵌合構造にて嵌合せしめられて、保持され、該隅部を内側から覆うと共に、該固定部材を覆い、該固定部材が内側に突出しないようにした、略円弧状の横断面形状を有する目地材4を設け、該目地材4にて前記固定部材による該パネルと該目地材4との固定部を水密に覆蓋せしめるように構成したバスユニットにおける内部隅部構造」(原判決第二三頁第一八行目乃至第二四頁第八行目)が開示されていると認定している。そして、この認定を下すに到る経緯として、
<1>、第一に、甲第4号証内の各部分的記載内容を摘示して、「甲第4号証記載の考案は、衛生設備ユニットの隅角部における自地材取付けの施工容易性と防水性を技術的課題としているものと認められる。」と判断した上、
<2>、第二に、前記摘示の各記載内容より「同号証(上告人註 甲第4号証)記載の衛生設備ユニットにおいて、目地材が防水のために取り付けられるものであることは明らかであるが、隅角部は隅部が三方向から一箇所で交叉する箇所であって、隅角部の防水は隅部の防水を前提とするものである。」と判断し、
<3>、第三に、甲第4号証の第2図について、目地材が重なり合ったものが示されていないことを理由として、同図を「隅部における目地材の取り付けを示したものと認めるのが相当であり、この構造が隅部における防水を果たしている」と判断し、
これら三段階の判断を経て、前記認定を導いている。
2、しかしながら、右認定に到る判断においては、以下の点において誤りがある。すなわち、第一に、前記第二の、「目地材が防水のために取り付けられるものであることは明らか」との判断部分であり、第二に、同じく「隅角部の防水は隅部の防水を前提とする」との判断部分であり、第三に、前記第三の、甲第4号証の第2図を「隅部における目地材の取り付けを示したもの」であるとする判断部分である。以下、各判断の誤りについて詳述する。
3、第一に、「目地材が防水のために取り付けられ」たものであるか否かの点であるが、以下の理由に示す通り、目地材が防水のために取り付けられたものでないことは明らかである。
<1>、先ず、甲第4号証は前記原判決の第一の判断でも述べられているように、「衛生設備ユニットの隅角部における目地材取付けの施工容易性と防水性を技術的課題と」する発明についての公開公報であって、目地材の作用・効果についての具体的な記載が全くないことである。すなわち、原判決が「同号証記載の衛生設備ユニットにおいて、目地材が防水のために取り付けられるものであることは明らかである。」との判断を導く根拠としている「甲第4号証の上記各記載」(原判決第二三頁第四行目)の中で「防水」の概念が表示されているのは、「従来の複雑な目地施工によっても不十分であった隅角部の防水が、この発明によれば目地材が互いに重なりあっているので、水滴、湿気等の外部への侵出を完全に防止できるものである。」との記載のみであり、この記載においても「隅角部の防水」の効果を謳うのみであって、しかもその防水の効果の生ずる源を「目地材が互いに重なりあっている」ことに求めているのみであって、目地材そのものの防水効果については何等言及していない。一般に、目地とは、煉瓦・コンクリートブロック・タイル等を積んだり張ったりした時にできる継ぎ目のことであり、更には広く、建築等において部材の接合端に生ずる線状の継ぎ目部分を指すことがあるが、いづれにしてもその継ぎ目を覆うものが目地材であって、「目地材」という単語のみからは、当然には「防水」という観念は生じてこない。それ故、甲第4号証の発明において、目地材が重なり合っていることによって隅角部の防水の効果が得られるとしても、その言葉だけでは、重なり合う個々の目地材の有する防水効果が相乗されて隅角部の防水効果が得られるのか、単に目地材が重なり合うことによって隅角部の防水効果が得られるのか、一義的に定まらないことになり、甲第4号証に記載された目地材が防水の効果を有するか否かは、その具体的な構成から判断せざるを得ないこととなる。
<2>Ⅰ、そうすると次に、甲第4号証の発明が隅角部において各目地材を重ね合わせることを必須の要件とし、現にそこに記載されている実施例においてもそのような隅角部の構造が示されていることから、重なり合った目地材のパネルに対する位置関係を考えなければならないこととなる。甲第4号証の第3図A・Bは「目地材の隅角部の納めを示す実施例斜視図」であると記載されているが(甲第4号証第一八二頁左下欄第三行目及び第四行目)、この図においては目地材の取り付けられるべき各パネルが省略されているため、一見、各目地材(すなわち4a、4b、4c)は、その先端部において重ね合わされるとともに、その取り付けられるべき天井パネル1や壁パネル2に対して、常に接触しているように見える(当然ながら、目地材が重ね合わされることによって、他の目地材の上になる部分では、その目地材はパネルには接触しない。)。しかしながら理論的に考えれば、その重ね合わされた三枚の目地材(すなわち4a、4b、4c)は、少なくともその重なり合う部分の寸前において、パネルから浮き上がり接触しなくなることは明らかであり、以下その事実を論証する。
Ⅱ、甲第4号証の第3図Bにおいては4aとされる目地材を一番下にして、その上に4bとされる目地材が、そしてその更に上に4cとされる目地材が重ね合わされている(甲第4号証第一八二頁左上欄第一五行目乃至右欄第一行目参照)。その目地材の隅角部における取付状況を略上方の視点より見た斜視図が別紙Aであり、図示及び説明の便宜のために、天井パネル及び目地材の取付構造に関する部分は図面より省略するとともに、壁パネルは点線によって指示されている。又、別紙Aのイーイ断面図が別紙Bの第1図であり、同じくローロ断面図が別紙Bの第2図である。(尚、別紙A及びBにおける符号は甲第4号証に準拠して記入するとともに、壁パネルは特定するために2a、2bとした。)先ず、別紙A及び別紙B第1図に示すように、目地材4aは天井パネル1と壁パネル2aとの継ぎ目部分を覆うように取り付けられた上、天井パネル1と壁パネル2a及び壁パネル2bによって形成される隅角部において直角に屈曲されて、天井パネル1と壁パネル2bとの継ぎ目部分の一部を覆うように取り付けられる。そして、前記両図に加えて別紙B第2図に示すように、目地材4bが天井パネル1と壁パネル2bとの継ぎ目部分を覆うように取り付けられた上、その斜めに切り欠かれた先端側が、前記目地材4aの上に重ね合わせられる。尚、甲第4号証の第3図Bでは重ねられる目地材4bの最先端がどこに位置せしめられるのか明確で砥ないが、「目地材4aをコーナー部に沿って湾曲させて取り付け、この上部に、偏った位置で先端を斜めに切り欠いた目地材4bを重ねるように湾曲させて取り付け」(甲第4号証第一八二頁左上欄第一六行目乃至第一九行目)と記載されて、下になる目地材4aの場合と同様に「湾曲」という用語を使用していることよりすれば、目地材4bの最先端ば隅角部を過ぎた位置にまで到達しているものと考えられるので、別紙Aにおいては、そのように図示したものである。ところで目地材4bは、「コーナー部に沿って湾曲させて取り付け」られた目地材4aの上部に、「重ねるように湾曲させて取り付け」(甲第4号証第一八二頁左上欄第一六行目乃至第一九行目参照)ると説明されるのみで、その具体的な取り付け構成については何等示唆されていない。そして、甲第4号証第3図Bの、目地材4aと目地材4bとの重ね合わせ部分には、特段の段差が設けられていない。これよりすれば、目地材4bは天井パネル1と壁パネル2bの継ぎ目を覆いつつ、隅角部に向かうに従って目地材4aと重なり合うために、徐々に、目地材4aの厚さだけ天井パネル1及び壁パネル2bから浮き上がり、その浮き上がった間隙部分に、壁パネル2b側へ直角に屈曲された目地材4aの先端部分が位置せしめられることとなる。そのため、目地材4bの裏面と目地材4aの先端部分と天井パネル1によって囲まれた部分及び目地材4bの裏面と目地材4aの先端部分と壁パネル2bによって囲まれた部分は、一体として外部に対して開放された空洞となり、その開放部分より水滴が目地材4bの裏面、すなわち目地材4bと天井パネル1及び壁パネル2bとにより囲まれた空洞部分に容易に侵入することとなる。そして、別紙Aの赤色に着色された部分が、その空洞部分の一部であり、別紙B第1図ではハッチングを施された目地材4bが天井パネル1及び壁パネル2bのいずれとも接触していないことがその空洞部分を示し、又、別紙B第2図では黄色に着色された部分がその空洞部分の内の天井パネル1との間に生ずる開放部分を示している。一方、目地材4cについては、「さらにこの上部に、左右対称に先端を斜めに切り欠いた目地材4cを重ねて形成する」(甲第4号証第一八二頁左上欄第二〇行目乃至同頁右欄第一行目参照)と記載され、且つ、目地材4bの場合と同様に、甲第4号証第3図Bの、目地材4cと目地材4a及び目地材4bとの重ね合わせ部分には、特段の段差が設けられていない。これよりすれば、目地材4cは壁パネル2aと壁パネル2bの継ぎ目を覆いつつ、隅角部に向かうに従って目地材4a及び4bと重なり合うために、徐々に、目地材4aと目地材4bの厚さの合計分だけ壁パネル2a及び壁パネル2bから浮き上がり、その浮き上がった間隙部分に、既に隅角都に取り付けられた目地材4aと目地材4bの略先端部分側面が位置せしめられることとなる。その結果、目地材4cにおいては、目地材4bの場合にも増して、目地材4cの裏面と目地材4a及び目地材4bの略先端部分側面と壁パネル2aによって囲まれた部分、及び目地材4cの裏面と目地材4a及び目地材4bの略先端部分側面と壁パネル2bによって囲まれた部分は、一体として外部に対して開放された空洞となり、その開放部分より水滴が目地材4cの裏面、すなわち目地材4cと壁パネル2a及び壁パネル2bとにより囲まれた空洞部分に容易に侵入することとなる。そして、別紙B第1図において緑色に着色された部分が、その空洞部分の内の壁パネル2bどの間に生ずる開放部分を示し、又、別紙B第2図において青色に着色された部分が、その空洞部分の内の壁パネル2aとの間に生ずる開放部分を示している。結局、目地材4bは、目地材4aの厚さ分だけ天井パネル1と壁パネル2bから浮き上がり、それだけでも水滴が目地材4bの裏面に侵入するのに対し、目地材4cは、目地材4aの厚さ分に加えて目地材4bの厚さ分だけ両壁パネル2a及び2bから浮き上がるため、より水滴が目地材4c切裏面に侵入し易くなる。
<3>、以上のように、甲第4号証の発明が目地材を隅角部において重ね合わせることを必須の要件としている以上、重ね合わされて上になる目地材(すなわち4b及び4c)において、開放部分(すなわち、別紙B第1図及び第2図において赤、黄、青に着色した部分等)が生ずることは技術的に必然のことであり、その開放部分が存在することはすなわち、目地材が「防水」のために取り付けられたものでないことに他ならない。そして、そう解することによってこそ、「パネルどおし接合部隙間を覆う目地材」(甲第4号証第一八一頁右欄第四行目乃至第五行目)、あるいは「この際目地材4の両縁9がパネルの端縁を覆い隠し」(甲第4号証第一八二頁左上欄第一二行目乃至第一三行目)、更には「ビス6の頭も同時に隠す」(甲第4号証第一八二頁左上欄第一三行目乃至第一四行目)等の各記載において、何故に「覆う」あるいは「隠す」という「防水」を意味しない用語が使用されたかが明らかになるものである。
4、それ故、第二の誤判断部分である「隅角部の防水は隅部の防水を前提とする」との判断も誤りであることは明らかである。すなわち、右判断における「隅部の防水」とは隅部における目地材による防水であるところ、前述したように目地材が防水のために取り付けられたものでない以上、隅角部の防水が隅部の防水を前提としないことは明らかである。さらに付け加えれば、そもそも甲第4号証には隅角部の防水の効果は謳われているものの、隅部の防水は一切記載されておらず、しかも、目地材が防水のために取り付けられたものでないことが明らかである以上、甲第4号証に記載された隅角部の防水効果は、隅角部において目地材が三枚重ねになっていることから生ずるものと解釈せざるをえないものとなるの
5、第三に、甲第4号証の第2図が「隅部における目地材の取り付けを示したもの」であると言えるか否かであるが、第2図については、「この発明における目地材4の取付けの断面を示す」(甲第4号証第一八二頁左上欄第五行目乃至第六行目)との記載と「第2図は目地材の取り付けを示す実施例断面図」(甲第4号証第一八二頁左下欄第二行目乃至第三行目)との記載があるのみである。しかるに、原判決は第2図について、「目地材が重なり合ったものが示されていない」(原判決第二三頁第九行目乃至第一〇行目)ことのみを理由として、第2図が「隅部における目地材の取り付けを示したものと認めるのが相当であ」る(原判決第二三頁第一四行目乃至第一五行目)と判断している。しかし、明細書に添付された図面は、その明細書のクレームに記載された発明自体の内容の理解を助けるために描かれるものであって、発明の要部と直接に関わらない部分については、図面において適宜省略されることがあることは常識である。そして、甲第4号証のクレームに記載された発明は、隅角部において目地材が重ね合わされることがその要部であり、当該発明の要部ではない目地材の取り付け構造を示す第2図においては、記載内容の省略がありうるものである。実際、重なり合った目地材を図示したとすれば、線が交錯して判読困難な図面となる可能性があり、目地材の取り付け構造を示すだけであれば、重なり合う目地材を省略した第2図のような図面が合理的である。一方、第2図は目地材の取り付けを示す図面であって、その目地物の重ね合わせにもけるどの時点の目地材の取り付け状況を示したもめであるか記載していない。それ故、重ね合わせた際に一番下になる4aの目地材が取り付けられた時点の隅角部における目地材の断面図を考えれば、第2図に記載の通りの図面になるはずである。いずれにしても、「隅角部」における目地材の取り付けを示す可能性がある以上、単に「目地材が重なり合ったものが示されていない」という理由だけで、甲第4号証の第2図が「隅部」における目地材の取り付けを示すものであると判断することは誤りとなる。
三、考案における進歩性の解釈
1、特許法において、発明とは「自然法則を利用した技術思想の創作のうち高度のものをいう」と定義される(特許法第二条第一項)のに対し、実用新案法における考案は「自然法則を利用した技術思想の創作をいう」と定義されている(実用新案法第二条第一項)。すなわち、発明と考案とはその定義において既に、技術思想のうち高度のものであるか否かにおいて差異を有し、法において保護されるべき考案は創作として高度であることを要しない旨を明言されているのである。そして、その差異に対応すべく、その登録要件における進歩性についても、発明の場合には、「特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基づいて容易に発明をすることができたと港は」特許を受けることができない(特許法第二九条第二項)とするのに対し、考案の場合には、「実用新案登録出願前にその考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる考案に基づいてきわめて容易に考案をすることができたときは」実用新案登録を受けることができないとして(実用新案法第三条第二項)、単なる「容易」ではなく「きわめて容易」としているのである。
2、このように発明と考案とが、明確に法文上も区分されている以上、その要件の解釈においてもその区別を明確にすべきである。特に、進歩性の判断における「容易」と「きわめて容易」との区別は、いわゆる小発明をも保護しようとする実用新案法の立法趣旨からしても、厳格に考えるべきものである。そして、従前の特許庁における審査・審判手続きにおいても、その区別は明確になされており、物品の形状・構造又は組合せに限定されて保護される考案については、「普遍的技術の特定物品への適用により技術の効果を社会に拡げる。」という基本理念の下、「物品の窓を通して考案を見る。」という判断基準が経験則として確立されて来た。もしも法解釈によって、発明と考案との間の区別を不明確にしてしまうと、実用新案法そのものの存在意義を喪失せしめることとなる上、従来の審査基準によって権利化されてきた実用新案権の存立の基盤を揺るがせ、将来において無効とされるべき実用新案登録が多数発生するとともに、権利侵害者が容易に無効審判の提起によって対抗しうることとなって、産業社会に無用の混乱を生ぜしめ、しかも、技術開発力の不足から実用新案権によってしか大企業に対抗しえない中小企業の存立を危うくする結果、産業政策そのものの根底を覆してしまうこととなる。
3、ところが、
<1>、原判決は、「甲第1号証記載のものも、冷凍コンテナの内部隅部構造を水密性を有するものとすることを技術的課題としているものであって、この点は本件考案と共通しているということができる。また、内部隅部の水密性が得られれば、断熱材層の劣化を防止し得ることは当業者であれば当然予測できることである。」(原判決第二〇頁第一六行目乃至第二一頁第二行目)とした上、甲第4号証の記載内容につき、「隅角部の防水は隅部の防水を前提とするものである。」(同第二三頁第七行目乃至第八行目)と断定して、その第2図をして、「隅部における目地材の取り付けを示したものと認めるのが相当であり、この構造が隅部における防水機能を果たしているものと認められる。」(同第二三頁第一四行目乃至第一七行目)と認定している。そして、その両者を受けて、「甲第1号証記載の考案は冷凍コンテナに関するものであるのに対し、甲第4号証記載の考案は衛生設備ユニットに関するものであって、その対象とする物品自体は相違するが、両者は共に、その内部において水を扱い、その内部隅部から水又は水分が侵出することを防止する必要がある点で共通の課題を有している。」(同第二五頁第三行目乃至第八行目)として、「甲第1号証記載の冷凍コンテナの内部隅部構造に甲第4号証に開示されている内部隅部の上記防水構造を適用して、本件考案の構成を得ることは、当業者において格別の困難性を有することなくきわめて容易になし得たもの」(同第二五頁第一四行目乃至第一八行目)であると判断しており、本件考案、甲第1号証及び甲第4号証を水密性あるいは防水という抽象的共通概念で一括して、本件考案の容易性を判断しているのである。
<2>、右のような原判決において、甲第4号証の解釈そのものに誤謬があることは前述したところであり、甲第4号証の解釈を正しく行えば、甲第1号証に記載された構造に甲第4号証に記載された構造を適用すること自体、困難であり、更に、仮に適用したとしても、本件考案の構成を得ることが困難であることは論を俟たないことであるが、仮に百歩譲って、甲第4号証に原判決が認定した通りの構造が記載されていたとしても、原判決は発明と考案との差異を看過し、実用新案法第三条第二項の、特に「きわめて容易」という文言についての法律解釈を誤ったものである。
4、そこで、実用新案法第三条第二項の解釈として、考案の登録要件としての進歩性すなわち、引用例から「きわめて容易」に考案を創作しうるか否かを具体的に考えると、技術的課題及び作用・効果の側面とともに、技術内容し技術分野及び技術的関連性の側面の両面から考察する必要がある。そして、前述した実用新案法の立法趣旨・存在意義並びに従前の判例等から、本件訴訟に関連する限りにおいて右両面を考察すると以下のような判断基準が導かれる。
<1>、第一に、出願にかかる考案と引用例との間、あるいは比較対照に際して基礎となる引用例とそれに付加される引用例との間で、技術内容や技術分野あるいは技術的関連性について相違がある場合には、発明の場合と異なり、原則的に進歩性が肯定されるべきである。まさにこの点において登録実用新案と特許発明との相違が、前記実用新案法の立法趣旨及び実用新案権の存在意義に基づき顕現されているのである。
<2>、第二に、出願にかかる考案の各構成要素が引用例のいずれかに記載されていても、各構成要素の総合の結果、引用例には存在しない技術的課題あるいは作用・効果が認められれば、進歩性は肯定されるべきである。特に、考案は「物品の形状、構造又は組合せに係るもの」であるので、理屈をつけようとすれば、引用例に記載された個々の構成要素から出願にかかる考案の作用効果を予測することが、ほとんどの場合、可能となってしまうので、その比較すべき出願にかかる考案と各引用例の技術的課題や作用・効果も、一般的・抽象的あるいは上位概念で捉えるべきではなく、具体的・実用的次元で捉える必要がある。
<3>、第三に、出願にかかる考案の進歩性を否定する場合には、その比較すべき引用例においても技術的課題、作用・効果が明示的に記載されるべきであり、その技術的課題、作用・効果の共通性の幅は発明の場合に比較して狭いものとなる。
5、そして、右基準は決して上告人の独断ではなく、
<1>、上告人が既に原審において参考判例として提出した昭和六二年(行ケ)第六二号審決取消請求事件判決においても、第一の基準につき、「本件考案は農業機械である籾摺機の籾殻回収筒体に接続される補助筒体に係るものであるのに対し、第二引用例記載の考案が人体焼却炉に係るものであるから、両者はその属する機械的分野において隔たるものがあることは明らかである。」(右判決第二六丁第二一行目乃至第二七丁第三行目参照)とした上、その具体的な相違を明らかにして、「両考案において、一口に網状体といっても、その考案の目的に照らし構造、設置場所、設置形態などが異なるのであり、これを技術的に同視することは困難」(同第二七丁第一六行目乃至第一八行目参照)であると結論付けることによって、「籾摺機関連業界の当業者が人体焼却炉に関する技術に着想を求めること自体期待し得ない」(同第二七丁第二一行目乃至第二八丁第一行目参照)と判断し、更に、第二の基準についても、「転用容易性の判断の基礎となり得るのは、本件考案の属する技術分野に少なくとも近接した範囲における技術であり、かつ解決すべき課題ないし目的において共通性のある技術事項の開示である必要がある」(同第二八丁第一九行目乃至第二二行目参照)とした上、「技術的課題としても、両者を単に筒体内部に斜設された網状体によって気流と風送物とを分離するという点で共通するものと把握することはできない。」(同第二九丁第二行目乃至第四行目)と判断しているのであるから、技術的課題を具体的・実用的次元で捉えているものと言える。又、第三の基準である比較すべき引用例における技術的課題・作用効果の明示性についても、第二引用例には「籾摺機の分野に転用でき、かつ前記認定のような本件考案における技術的課題の解決に資するものであることを示唆する記載も見いだせない」(同第二八丁第五行目乃至第七行目参照)ことを理由として比較の対象とすることを否定しているのであるから、転用可能性等の明示的記載を要求しているものと言える。
<2>、更に又、前記第一の基準の前提として、特許権の場合においてさえ技術内容や技術分野あるいは技術的関連性について相違がある場合には、例えば別紙添付参考判決(一)の昭和六一年(行ケ)第一二号料決において、「引用例記載のものに周知技術を適用して特許出願に係る発明の構成を得ることが容易であったと認めるためには、当該周知技術が引用例記載のもの及び特許出願に係る発明の技術分野と同一であるか、あるいは比較的近接した又は類似の技術分野に属し、かつ、技術思想的にこれらの発明に近接し、これと共通の要素を持つものであることを要するというべきである。」(同判決第二〇四頁左欄第三二行月乃至第三九行目)と判断され、又、別紙添付参考判決(二)の昭和五八年(行ケ)第八二号判決において、「引用例記載の自動焦点制御装置の対象が、本願発明が焦点合わせの対象とする光像を処理の対象とする光学機械もしくは光学装置の技術分野のものとは認められないことに加え、焦点合わせの具体的な目的、用いられる光の違い、焦点検知のための振動機構の構成及び機能の違いを勘案すると、焼付装置や撮影・映写装置などの光学機器もしくは光学装置を扱う当業者が、技術分野を異にし、いわば金属加工の分野に属する右のようなレーザ加工装置に係る引用例記載の発明の存在に気付き、これを焼付装置に転用すべく同発明において焦点検出の際に用いられる焦点合わせ用光像手段に代えて明暗を有するパターンに関する技術を採択し、本願発明を想到することは、右技術が周知であることを考慮に入れても容易になし得るところとは認められない。」(同判決第七二頁左欄第二〇行目乃至第三六行目)と判断しているように、判例は慎重な判断を行っているのである。それ故、発明に比して進歩性の要件の緩和されている考案においては、技術内容や技術分野等が異なる場合には、原則的に進歩性が肯定されることになる。
<3>、次に、前記第二の基準については、別紙添付参考判決(三)の平成元年(行ケ)第四〇号判決において、「本件出願は、実用新案登録出願であり、実用新案は、『自然法則を利用した技術的思想の創作』(実用新案法第二条第一項)であれば高度なものであることを要しないのであって、その着想に格別のものがあり、しかもその構成によって後記認定のような優れた作用効果を奏するものである以上は、第一引用例ないし第四引用例の記載事項をすべて組み合わせれば本願考案の構成を得られるという理由だけで、本願考案は当業者にとってきわめて容易に考案をすることができたというべきではない。」(同判決第二六六頁左欄第一七行目乃至第二七行目)と判断し、更に、別紙添付参考判決(四)の昭和四二年(行ケ)第一三六号判決において、「この種物品の考案においては、その目的を達成するため、具体的に如何なる形状、構造又はその組合せをとり、それによって、具体的にどれだけの効果を生じたかが問題であり、単に概括的な目的、又は構造ないし効果の一部に共通するものがあったからといって、本願考案をもって、引用例の記載から、きわめて容易に実施しえる程度のものと断じ去ることは妥当とはいえない。」(同判決第五一八頁右欄第三九行目乃至第五一九頁左欄第四行目)と判断しているのである。
<4>、更に、前記第三の基準については、前述した別紙添付参考判決(三)の平成元年(行ケ)第四〇号判決においても、「いわゆる美人画であって、もとより前記技術的課題については何ら示唆するところがないことが認められるから、当業者においてこの画集を見た場合に、身頃の上方部分と両袖の上半分とが無地に形成されているところに着目して、第一引用例記載のものにおいて、その模様を相違点(2)に係る本願考案の前記構成と同様に限定し、振袖を留袖にも変え得るようにすることがきわめて容易に想到し得るということはできない。」(同判決第二六五頁左欄第三四行目乃至同頁右欄第五行目)と判断し、あるいは、別紙添付参考判決(五)の昭和四四年(行ケ)第七八号判決においては、「本件考案の出願前木や竹が紐とともに物干具として普通に使用されていた事実の顕著であることは本件審決の指摘するとおりであり、かつ、たまたま第1引用例に木製の杆等にビニール管を被覆緊縮せしめることが記載され、他方第2引用例にビニール管の孔に組紐を接着挿入した物干紐の構造が開示されていたとしても、これらの引用例がいずれも本件考案の意図した構成およびその作用効果につき全く示唆するところがないこと叙上説示のとおりである以上、当裁判所は、第2引用例が存する場合第1引用例記載の木杆を物干棹とすることは当業者のきわめて容易に考案することのできたものとした本件審決の認定は、合理的根拠が十分でないと認めざるをえない。」(同判決第四二四頁右欄第三行目乃至第一六行目)と判断しでいるのである。
6、そこで、右各基準に基づき本件考案が甲第1号証および甲第4号証より「きわめて容易」に考案し得るか否かを検証する。
<1>、第一に、本件考案が冷凍コンテナという物品たついての考案であるのに対し、甲第1号証には海上コンテナという物品についての、又、甲第4号証には衛生設備ユニットという物品についての各発明に関する記載がなされている。甲第1号証に記載された海上コンテナという物品が本件考案の対象である冷凍コンテナに対して極めて親近性を有していることは当然のことであるものの、甲第4号証に記載された衛生設備ユニットが、冷凍コンテナあるいは海上コンテナすなわちコンテナという物品に対して技術分野を異にし、且つ、親近性を有して恥ないことは明らかであり、この点のみからでも、本件考案が甲第1号証に甲第4号証を適用することによって、きわめて容易になし得たものと言うことはできない。原判決は、「単に考案の対象となる物品自体の属する技術分野が相違することから容易推考性を否定する根拠とすることは相当でなく、相違点として抽出された構成が他の公知文献に開示されているか否か、その構成は技術的課題を共通にするものであるか否かなどといったことをも考慮して判断すべき」(原判決第二六頁第一〇行目乃至第一五行目)であるとして、技術分野の異同よりも、技術的課題の異同を容易性における主たる判断基準としている。しかし、容易性の判断基準者は当業者、すなわちその考案に属する技術分野における通常の知識を有する者であるはずであり、技術分野が異なるということは、すなわち基本的には当業者ではなくなるのであるから、技術的課題の異同よりも、技術分野の異同に重点を置いて、容易性は判断されるべきである。もしもそう解さなければ、考案を出願しようとする者は、先行事例の調査として自らが当業者として認識しうる範囲内だけでなく、予想外の広範囲の技術分野にまで、自己の出願にかかる考案と同様の技術課題に対応した技術の有無を調査しなければ、安んじて出願を行うことができず、又、逆に、一旦権利化されたとしても、予外の技術分野に同様の技術課題に対応する技術が存在することを理由として、無効とされるかもしれず、安心して権利行使を行い得ないこととなり、まさに小発明をも保護しようとする実用新案法の立法趣旨を損なうこととなる。更に、親近性のない技術分野では、物品の構成が類似の機能を有していたとしても、その物品自体の利用分野の相違に従って、物品自体の具体的な構成も相違するので、例えば本件で言えば、目地材の厚さや、固定度合いあるいは水密性の程度等も当然に相違するのであるから、直ちに転用が可能となるものではなく、その転用がきわめて容易であるとは言い難いものである。因に、原告の提出した甲第15号証(鑑定書)においても、本件考案が甲第1号証及び甲第4号証に基づききわめて容易に考案することができたという結論ば導かれておらず、まさに鑑定書においても技術的分野の相違が重視された結果となっている。
<2>、第二に原判決は、甲第1号証記載の発明と甲第4号証記載の発明とは、「その内部において水を扱い、その内部隅部から水又は水分が侵出することを防止する必要がある点で共通の課題を有している」(原判決第二五頁第六行目乃至第八行目)と判断しているが、この判断においても「防水」という非常に抽象的な次元において共通概念を抽出している。しかし、前記第二の基準において述べたように、考案においては技術課題あるいは作用効果を具体的・実用的レベルで捉えて比較すべきであり、「防水」というような抽象的な次元において包括すべきではない。そして、本件訴訟に則して考察すれば、本件考案も甲第1号証に記載されたものもいずれもコンテナという物品に属し、そのコンテナというもの自体、内部に物を収納して移動させるという使用目的を有し、しかも、その移動という目的から振動や衝撃に対する堅牢性を要求され、且つ、構造的にも断熱材層を有し、その断熱材層を覆う薄い内装板の継ぎ月部分に隅部材(コーナーカバ」)が設けられている。そして、この隅部材(コーナーカバー)が設けられるのは、水密性を保持することはもちろんであるが、コンテナ内部において飛散する汚濁物を滞留し難くしたり、コンテナ内の洗浄を容易にしたりするためである(原判決は「本件考案における前記『内装部材を固定するためのりベットまたはネジ等の固定部材による該内装部材に対する穴部を効果的に覆蓋して水密となし、以って前記断熱材層の劣化を防止し、且つコンテナ自体の寿命を永続化せしめ得るようにした内部隅部構造を提供する』という目的は、相違点に係る本件考案の上記構成によって達成される」《原判決第一九頁第一七行目乃至第二〇頁第二行目》としているが、本件考案の目的あるいは作用・効果として清掃容易性や美観の向上が欠落していることは明らかであり《甲第6号証第2欄第一三行目乃至第3欄第一行目及び同号証第3欄第三四行目乃至第三七行目並びに同号証第5欄第一五行目乃至第二二行目参照》、この点においても、原判決は認定を誤っていると言える。)。尚、甲第1号証に記載されたもの。においても、右の様な作用・効果を営むものであるが、甲第1号証に記載されたものにおいて物、固定部材(甲第1号証記載の39a及び39bのナイロンリベット)の頭部がコンテナ内部側に突出することから、本件考案の公告公報(甲第6号証)に記載されたような、コンテナ内部の洗浄に際して、固定部材の穴から内部の断熱材層へ水等が浸入したり、その突出する固定部材頭部に飛散した肉等が固着して清掃の支障になる(甲第6号証第2欄第一五行目乃至第二四行目参照)というような欠点が存在したことになる。本件考案あるいは甲第1号証記載の発明には、具体的・実用的レベルにおいて右のような作用・効果が存するのに対し、甲第4号証記載のものは、衛生設備である風呂場のユニットという物品に属するものであり、その物品の使用目的はユニット内において人間の身体を洗浄することであって、ユニット自体、一定の位置に固定されるものである。そのため、振動や衝撃に対する堅牢性は要求されず、構造的にも断熱材層を有することなく壁材を組み合わせることによって形成されている。しかも、審決においても指摘されているように、本件考案や甲第1号証記載のものにおいては隅部材(コーナーカバー)が無くとも、コンテナとしての構造を有していて、隅部材(コーナーカバー)自体はコンテナとして必須の部材ではないのに対し、甲第4号証記載のものは、骨枠体が内側に露出するように、若干の間隙を設けてパネルを骨枠体に固着してなるものであるから、商品としての体裁上も、そのパネルの間隙を覆う目地材は必須の部材となっている。そして、甲第4号証記載のものにおいて目地材が設けられるのは、水密性を保持するためであったとしても、その水密性は風呂の使用に伴い発生する湯気や飛散することがありうる水滴に対するものである。又、その水密性の対象部分については、後述する第三の基準に関する問題点とも関連するが、骨枠体とパネルとの接合部分であって、固定部材であるビスの穴部分ではない。
このように、本件考案及び第1号証に記載されたものと甲第4号証に記載されたものの技術課題や作用・効果を具体的・実用的レベルで比較すると、右のような歴然たる相違が存するのであるから、甲第1号証に記載のものに甲第4号証記載のものを適用すること自体、とうてい当業者において想到すべくもなく、本件考案の構成を得ることがきわめて容易であったとはとうてい言えない。
<3>、第三に、原判決は甲第4号証に関して、「角部内側に目地材嵌着部7を備えた骨枠体5を隅部に配し、かかる骨枠体5に、隅部を構成する隣り合うパネル1、2の端部をそれぞれビス6等の固定部材にて固定せしめて連結する一方、該骨枠体5の角部内側の目地材嵌着部7に対して背部において凹凸嵌合構造にて嵌合せしめられて、保持され、該隅部を内側から覆うと共に、該固定部材を覆い、該固定部材が内側に突出しないようにした、略円弧状の横断面形状を有する目地材4を設け、該目地材4にて前記固定部材による該パネルと該目地材4との固定部を水密に覆蓋せしめるように構成したバスユニットにおける内部隅部構造」(原判決第二三頁第一八行目乃至第二四頁第八行目)が記載されていると推論により認定している。この推論による結論が誤りであることは既に論証した通りであるが、そもそも甲第4号証において、本件考案との関連で問題となり得る記載は、第2図とその説明である「第2図はこの発明における目地林4の取付けの断面を示すもので、5は骨枠体であり、この骨枠体5にビス6で天井パネル1、壁パネル2を骨枠体5が露出するように若干の間隙を設けて固着している。骨枠体5にはパネルの接続間隙となる位置に目地材嵌着部7が設けられていて、この部分に目地材4の基部8が嵌着されて、目地材4は取り付けられ、この際、目地材4の両縁9がパネルの端縁を覆い隠し、ビス6の頭も同時に隠すものである。」との記載のみである。前記原判決の下した認定のような目地材自体についての構成は明示的に記載されていない上、特に「該目地材4にて前記固定部材による該パネルと該目地材4との固定部を水密に覆蓋せしめるように構成」した点については、その構成はもちろん技術的課題や作用・効果について何等の示唆すらなされていない。考案の進歩性の判断に際して、引用例の技術的課題や作用・効果が明示されるべきであることは前記第三の基準で述べた通りであるが、そもそも記載内容を理解するために推論を行わねばならないこと自体、既にその記載内容が容易性判断のための引用例となりえないことの証拠に他ならない。
四、総括
以上の通り、原判決には
1、第一に、甲第4号証につき、経験則たる技術常識を無視することによって、目地材が防水のために取り付けられていると判断し、この判断を基に甲第4号証の記載内容を認定し、更にその認定に基づき本件考案の容易性を肯定しているのであるから、判決の結論に影響を及ぼすべき、経験則たる法令の適用の誤り、及び、採証法則の違反が存在する。
2、第二に、甲第4号証に記載された目地材がいかなる構成並びに作用・効果を有するかにつき、単なる推論のみにて認定をおこなっており、前記同様にその認定に基づき本件考案の容易性を肯定している以上、判決の結論に影響を及ぼすべき審理不尽の違法がある。
3、第三に、判決の結論に影響を及ぼすべき実用新案法第三条第二項の解釈を誤った違法がある。
4、第四に、前記第三項第6<2>において述べたように、理由中において本件考案の目的あるいは作用・効果としての清掃容易性や美観の向上を欠落させることによって、「防水」という抽象的上位概念で全てを包括して本件考案の容易性を判断しているのであるから、この点においても、判決の結論に影響を及ぼすべき理由不備の違法がある。
それ故、原判決はいずれの点においても取消を免れないものである。
以上
(添付書類省略)
別紙A
<省略>
別紙B
<省略>